ソマリの病気について書く前に、まずは純血種ペットの遺伝性疾患について触れておきたいと思います。
近縁同士の交配は、遺伝子の型が似ていることから、良い特徴も悪い特徴もそれぞれ強調されるということをご存知の方は多いと思います。この悪い特徴の中には「遺伝性の病気」も含まれます。
ペットとしての純血種は、その品種が固定される過程で、多かれ少なかれ近親交配を繰り返しているため(俗に“血が濃い”などと表現されます)、自然交配の子達と比べ、遺伝性の病気を抱えるリスクがどうしても高くなってしまうのです。
この点ソマリはどうでしょうか。【起源と歴史】でも書いたように、ソマリはもともと自然界にいた猫ではなく、たまたま産まれた長毛のアビシニアンを人の手で「種」として固定していった、かなり「人工種」のニュアンスの強い猫です。当然、繁殖当初は長毛の特徴を持つアビシニアンは少なかったでしょうし、親猫の選択肢の少ない中で繁殖をくり返すことで、他の純血種猫以上に血が濃くなる傾向は否めなかったと思います。
かつて、日本におけるソマリの数がいまほどは多くなかった時代にも、この傾向は続いたでしょう。ただ、その後のブリーダーさん方の努力(=血統を吟味してペアを考えたり、あえてアビシニアンの血を入れたり、海外のキャッテリーから猫を入れて遺伝子の型を遠くしてみたり)によって、だいぶ緩和されてはきているようです。健康に問題のないソマリも多くなりましたし、20歳のお誕生日を迎えるご長寿さんもいます。
一方で、血統をよく調べもせずにブリードさせる繁殖家や、遺伝性の病気が現れるペアリングと判明してもなお、子猫を産ませ続ける繁殖家も、悲しいことに後を絶ちません。後述するような遺伝的な問題や体質的なデリケートさを持ち合わせているソマリが無くならないベースも、そこにあると思います。
一般的にはソマリの遺伝性疾患といえば、後述する「PK-Def(ピルビン酸キナーゼ欠損症)」と言われますが、もっと身近な遺伝性のトラブルとして、「膝蓋骨脱臼(もしくは亜脱臼)」「停留睾丸(片睾丸)」「てんかん」のソマリちゃんは、管理人が知るだけでも数例あります(※てんかんには遺伝が関与しないものもあります)。一歳の誕生日を迎えることなく旅立ってしまった我が家の三女は、脳障害を伴う「両性具有」という特異な体でした。
また、“病気”というレベルに至らなくとも、そのデリケートさが体質的な弱点として現れることもあるでしょう。それはアレルギーかもしれない、泌尿器系トラブルかもしれない、お腹が弱いという体質かもしれない。ちなみに、管理人たちが運営している別館の健康サイト「猫logy Life」では、お腹が弱いソマリの子猫に関するご相談をうけることがたいへん多いです。(軟便克服の記録を掲載しているサイトの性質上、当然の傾向とも言えますが)
こんな風に書くと、ソマリがみんな体が弱いように聞こえてしまうかもしれません。が、先に書いたように、志の高いブリーダーさん方の努力で、立派な健康優良児も増えてきています。我が家では、長男に関してはお腹が弱かったり、胆石症を発症したりといった体質的な問題点がありますが、他の子は現在獣医師お墨付きの健康優良猫たちです。
ただ、ソマリを家族に迎えたいという方がいらしたら、上記のことを念頭において、迎えた子猫がどんな体質であったとしても、しっかりケアしてあげるんだという「覚悟」だけは予め持っておいていただきたいのです。それが、人工種の猫「ソマリ」のママパパになる心構えだと、6頭の母である私達は思っています。
上述したように、ソマリやアビシニアン特有の遺伝性疾患は溶血性貧血の一つである「PK-Def」(ピルビン酸キナーゼ欠損症)だと言われますが、実際、日本で「PK-Def」と診断されるケースはかなり少ないようです。これは、海外の猫事情に詳しいブリーダーさんによれば、日本の獣医療が遅れているためになかなか確定診断に至らないだけで、検査の容易なアメリカではやはりソマリのPK-Defはよく知られた疾患なのだそうです。
※ PK-Def=溶血性貧血の一種。症状は断続的な貧血、倦怠感、食欲不振など。確定診断は遺伝子検査でできますが、今のところ日本では行っておらず、アメリカのDavisに検体を送ることで可能です(個人でもできます)。>>Erythrocyte Pyruvate Kinase Deficiency (PK Deficiency) in Felines
この11年、ネットを通じ沢山のソマリ達の見守り隊をしてきて、一つ実感していることがあります。PK-Defと確定診断されたという話こそ身近で聞いたことがないものの、どうもソマリには、血液に関わる疾患が多いのではないかということです(あくまでも経験上思うだけで、他の猫種と比較したデータがあるわけではないですが)。具体的には、ヘマトクリット(PCV/Ht)の数値がやや低めという軽度かつ慢性的な貧血、原因の特定できない一過性の貧血、さらに、重篤になりがちな「免疫介在性溶血性貧血」「悪性リンパ腫」等。
悪性リンパ腫に関しては、猫全般について多く発症しやすい疾病なので除外するとしたら、「貧血」がキーワードになるかもしれません。貧血については、早期発見早期治療のためのページを作成しようと考えています。
いずれにしても、日本では「ピルビン酸キナーゼ欠損症」や「免疫介在性溶血性貧血」などの疾患を早い段階から獣医師が確定診断してくださることはなかなか難しいようで、血液検査で貧血や肝臓などの数値が悪いと、FIPと誤診されてしまうケースも少なくありません。そういう意味でも、ソマリにはこういった疾患があることを、オーナー側が把握しておくといいと思います。
愛猫が「ソマリ」だからといって神経質になることはありませんが、他の猫さんを育てる時と同様の愛情ケアを、そしてプラスほんの少しだけ健康面に注意してあげられれば、きっとそのソマリちゃんは快適な健康生活を送れると思います。
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