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MRIの結果、告げられたのは「脳には全く異常なし。眼振はやはり内耳の問題の可能性が高いでしょう。検査の麻酔からも順調に覚醒したので、帰宅後は普段通りでかまいません。もちろん、今後、精巣卵巣摘出手術を受けることも心配ありませんよ」
良い結果が出ると信じてはいたものの、一時は“水頭症”という言葉さえ脳裏に浮かんだこともあった心配症のママたちは、この言葉を聞いて、嬉しくて嬉しくて天にも昇るような気分でした。“心配”というフィルターを一切かけずにLyckaを見つめ、抱きしめた時の、この上ない幸せ...。家に戻り、楽しそうに兄弟たちと遊び、美味しそうにご飯を食べるLyckaの姿は、今まで以上に愛らしく輝いて見えました。
けれど、この日の深夜。Lyckaは、いつも寝ている高さわずか1mの棚から落ちて、腕を骨折してしまったのです。検査疲れで熟睡していたとはいえ、ありえないような事故。せっかく検査をがんばったLyckaがこんな痛い思いをするのが可哀想で、できるものなら代わってあげたいと、ママたちは悔やんでも悔やみきれませんでした。
ただ、たった一つの救いは、MRIで脳が異常なしだったこと。骨折の処置は麻酔をかけての手術となるけれど、専門医に「問題なし」と太鼓判をおしてもらっているのですから。ママたちはむしろ、骨折につきものの長期の入院で、他の子達との間に溝ができてしまわないかとか、家に戻ってからのリハビリをどうさせるかとか、そんなことばかりを考えていました。
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連日の麻酔はなるべく避けたいという主治医の配慮で、骨折の手術は中二日あけて行うことになりました。脳外科専門医の先生と事前に打ち合わせ、麻酔も、MRIの時と同じく脳に負担のないものを選択。術前のLyckaの状態は落ち着いていて、体調も血液検査も問題なし。そうやって万全を期して臨んだはずの手術でした。
でも、「無事に終わりましたよ」の連絡を待っていたママたちに届いたのは、「手術そのものは無事に済みましたが、Lyckaちゃんの覚醒が遅れているので、すぐに来ていただけますか」の電話。
Lyckaは、術後に重い脳障害を起こしてしまったのです。
それから後の出来事は、ママたちにとって、全てが夢の中で起こったことのよう。どんなに名前を呼んでも、眠りから覚めない手術台の上のLycka。時折おこる、てんかん発作のような痙攣。Lyckaに付き添うため病院を休診にし、脳外科の先生と連絡をとりつつ、必死の形相で治療を施してくれる先生の姿。体温も心電図も血圧も正常なのに、脳波だけが検出できないほど弱まっていることを伝えるLyckaにつながれたモニター。
「通常、もし麻酔で重篤な事態になるとすると、たいていは心臓の問題なのに、Lyckaはちゃんは何らかの脳障害をおこし、脳ヘルニアと呼ばれる危険な状態に陥っている。この麻酔でこういう状況になるなんて考えられないことなんです」...先生の説明が、ぼーっと頭の中をかすめていく。
たとえどんな障害が残ったってかまわない、ママたちが全部受け止めてあげるから。だから生きて...!!目を覚まして...!!。心の中でそう叫んでも、見開かれたLyckaの瞳にもとのような温かい光が戻るのは、素人目には、“奇跡”以上に不可能な壁に見えました。
Lyckaの回復は、もう絶望的なんですか...。恐る恐る訪ねたママたちに、先生は「まだ諦めません。絶対にLyckaちゃんをみんなのもとに元気で帰したい」そう言い、二晩夜通しで治療を続け、ママたちが付き添えない深夜には、2時間ごとに容態を知らせてくれました。
神様、どうかLyckaを私達から奪わないでください。神様、どうかLyckaを兄弟たちから奪わないでください。....なす術も無く、ただ祈るだけで過ぎて行く時間....。
でも、急変から二日後。Lyckaの命の灯は燃え尽きようとしていました。先生は、Lyckaがまだ生きているうちにみんなに逢わせたいと、治療を自宅に移して続けることを提案してくださいました。先生と奥様先生に連れられて、家に戻ったLycka。病院の匂いが大嫌いな兄弟たちが、誰ひとり吹くことなく、逃げることなく、Lyckaを迎えました。
自宅での治療の間、兄姉弟たちが次々とLyckaのそばにやってきます。Lyckaと一番の仲良しだった小さいお兄ちゃんは、Lyckaのことを真剣なまなざしで、ずっと見つめていました。弟くんはいつもと様子が違うお姉ちゃんに戸惑ったのか、少し困った顔をしながらも、そばにいてくれました。
それから数時間。先生方と兄姉弟たちに見守られ、ひとりのママの胸の中、もうひとりのママに手を握られながら、Lyckaの生涯は静かに幕を閉じました。
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Lyckaがアドバイスを受けてきた脳外科専門医。日本でも有数の名医といわれるその先生は、これまでどれほど多くの症例を診てきたことでしょう。でも、その先生をもってしても、Lyckaがこの種の麻酔で死に至るほど重い脳障害を起こしたことは、「残念ながら予測不可能なレアケースだった」と言わしめるものでした。
MRIでは異常なしだったLycka。けれど、もし本当に脳が“健常”であったなら、起こりえなかった事態。やはりLyckaの脳は、“特別”だったのです。
でも、それならばあのMRIは何だったんだろう...。もしあの日、MRIを受けに行かなければLyckaはまだ生きていられたはず...。でも、MRIを受けずに精巣卵巣摘出手術に臨んだとしても、Lyckaの特別な脳は、やっぱり手術に耐えられなかったんだろうか....。ママたちが泥沼のような後悔に襲われる中、Lyckaは、すやすやと眠っているような穏やかな顔。友人たちから届く綺麗なお花が、Lyckaを優しく彩っていきます。
霊園の都合で葬儀が4日後になったのも、ママたちには、ただの偶然とは思えませんでした。入院していたのと同じ日数、Lyckaはまだお家に居たかったに違いないと。
いつもと同じようにササミ祭りをし、兄弟たちに賑やかに囲まれ、眠るLyckaに猫ジャラシを振って過ごした4日間。いよいよ明日は旅立ちという前の晩、遊び時間の最中に、突然Lyckaの表情が満面の笑顔になっていることにママたちは気付きました。“微笑み”を通り越し、今にもケラケラと声をたてそうな、Lyckaお得意のくしゃっとした笑顔。ママたちもその顔を見て、思わず笑顔になっていました。
翌日。兄弟たちに別れを告げて、向かった霊園。出迎えてくれたスタッフも、Lyckaを見て「わぁ、いいお顔で笑ってますね」と笑顔になりました。火葬の後には、また別のスタッフがママたちの元にやってきて、「長年ここにいますが、こんなに美しい姿のご遺骨を初めて見て感動しました。そのことを一言お伝えしたくて」と、声をかけてくれました。
ねぇLycka。いったいLyckaには、いくつの“こんな子は初めて”が付いて回るんだろうね。Lyckaをお迎えしたときから、その言葉がずっと付いて回っていたよね。でも、ママたちはようやく分かった。Lyckaに幸せになってほしくて「幸福」と名前をつけたのに、いつも自分のことより、周りを“幸福”にしようとするLycka。みんなが笑顔でいることが大好きなLycka。どんなささいなことにも喜びを見つけ、それをあふれる愛にして周囲に還してくれるLycka。本当に、Lyckaみたいに素晴らしい子は、どこを探してもいないよ。
Lyckaの本当に“唯一無二”なところは、その体じゃない。どこまでも純粋で、誰よりも優しい、その気高い心だったんだ。
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振り返ってみれば、ママたちがLyckaと過ごせたのは、たった150日のことでした。Lyckaがくれた、とても濃密な幸せの150日。それでも、Lyckaの猫生があまりにも劇的だったことを、ママたちはきっと一生、昇華できずに過ごすのでしょう。
平凡な日々を穏やかに過ごし、冬が来て、お兄ちゃんや弟くんと猫団子を作るLyckaを見たかった。大人になってステキなレディに成長したLyckaを見たかった。可愛いおばあちゃんになったLyckaのそばにいたかった。絶対に守り抜くとお空の桃姉に誓ったのに、こんなに早く旅立たせてしまって、本当にごめんね...。
ママたちの心から深くえぐり取られた、Lyckaの形をした空洞は、もう一度Lyckaに再会する日まで埋まることはないけれど、それでもママたちは思うのです。
どんなことにも目一杯の幸せを見いだす天才だったLyckaのママであり続けるために、私達もまた、どんな小さなことにも幸せを見いだせる人間になろうと...。みんなの笑顔が大好きだったLyckaに笑っていてもらうために、私達自身も、ずっと笑顔でい続けようと...。
今生の別れがどんなに苦しいものでも、あなたと出逢えたことをママたちは、決して後悔していない。心が血を流したままでも、あなたがこよなく愛した兄弟たちと一緒に、今、ゆっくりと歩き出すからね。Lyckaもずっと一緒にいこうね...。ずっとずっと、一緒にいようね。
ママの耳にはいつも、宇宙まで届きそうなLyckaのゴロブーが聞こえてるよ。
私達のかけがえのない天使、Lyckaに、永遠の愛をこめて...。
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MRI上は「異常なし」だったのに、一番悲しい形で証明されてしまった、Lyckaが持って生まれた特異性。でも、もしかしたら、そのことを一番先に感じとっていたのは、母の“本能”だったのかもしれません。
思えば、眼振はおろか半陰陽ということさえ分からなかったハイパー子猫の時代から、私達は、Lyckaのまなざしに、どこか他の子達と違うものを感じていました。兄弟一甘えん坊で、ママのことをじっと見つめて甘えてくるのに、その瞳はママを通り越して、どこか違う世界を見ているようで...。
ベランダの窓越しに外をながめるのが大好きなLyckaが、そのままふっと空に溶け込んで消えてしまいそうな、変な妄想にかられる時もありました。
でも、そんなLyckaが、別人のように強いバイタリティを発揮したのが、リノ兄ちゃん、そして弟のレアルとの遊び時間だったんです。Lyckaの瞳は燃えるようにイキイキと輝き、兄も弟もかなわないほどのタフネスさで、ずっと楽しそうに遊び続けていました。
Lyckaをこんなにも早く旅立たせてしまった私達は、間違いなくダメな母親です。でも、リノとレアルが居てくれたからこそ、Lyckaの猫生はこんなにも輝いていたんだと思います。
リノ、レアル。ママたちは心から感謝してるよ。Lyckaを幸せにしてくれてありがとう。
そして、ブログ・BBS・メール・電話を通して、Lyckaに温かいお悔やみのメッセージをよせてくださった皆様、本当にありがとうございました。

※文中にも記したとおり、猫の眼振にはさまざまな原因が考えられ、眼振=脳障害ということではありません。シャム系の猫さんの場合には、遺伝的な要因で斜視や眼振が起こる場合があり、その場合には“病気”という捉え方はされないそうです。念のため補足させていただきます。