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季節は春。とあるソマリキャッテリーさんに、可愛いルディの女の子が生まれました。女の子は、すくすく成長し、運命の家族との出逢いを待っていました。
同じ頃。遠く離れた空の下。ひとつのソマリ一家が、最近やんちゃがすぎて、お兄ちゃんお姉ちゃんにすっかり敬遠されてしまってる小さな末っ子くんに、妹を迎えてあげたいと思っていました。大人組と子供組、ふたつのコミュニティができれば、きっとみんなが今以上に楽しく過ごせるようになるはず...ママたちは、その願いをこめて、次にお迎えする子の名前を、遠い国の言葉で「幸福」を意味する「Lycka」(リッカ)と決めました。
出逢いは、ソマリ一家の先代うさぎ、“まりん”の誕生日。「まりんが生まれ変わって帰ってこないかな」と、ママたちが何気なく開いたページには、可愛いルディの子猫が、じっとこちらを見つめていたのです。プリンセスのようにエレガントなそのまなざしは、ママたちにとって永遠に忘れられない娘、初代うさぎの“桃”にそっくり。
この子こそ運命の妹に違いない。二人のママは確信しました。
...奇しくも、立夏(りっか)の日の出来事。
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女の子はソマリ一家に迎えられ、Lyckaと名付けられました。Lyckaは、すぐに小さなお兄ちゃんと仲良しになり、それまでやんちゃのし放題だったお兄ちゃんは、妹を迎えたことで心が豊かに成長し、優しさいっぱいのナイトへと変身しました。
朝から晩までじゃれあったり、毛繕いしあったり、抱きしめ合って眠ったり...片時も離れないふたりの姿は、まるで小さな恋人達のよう。子猫同士で遊ぶようになったことで、大きなお兄ちゃんとお姉ちゃん達も、自分たちのペースを取り戻し、みんなが願ったとおりになったことを、ママたちはLyckaに感謝しました。
感情表現がとても豊かで、甘えるのも、暴れるのも、ご飯を食べるのも、何をするにもいつも全身全霊で体当たりのLycka。朝は、寝ているママの顔にぎゅっとしがみつき、宇宙まで届きそうなゴロブー音を出しながら、笑顔いっぱいのご挨拶。ポメラニアンのようにモフモフのおちりが、コロコロと目の前をいったり来たりする度に、ママは至福の喜びを感じました。
実は、Lyckaにはちょっと変わった個性があることを、ママたちはブリーダーさんから聞かされていました。それは、ちっこの出口が普通よりも尖っていて、そのために、お年頃の男の子のマーキングのように、ちっこが後ろに勢いよく飛びやすいこと。でも、ブリーダーさんのもとでLyckaを診た先生の診断によれば、Lyckaはまぎれも無く女の子で、この状態はいずれ避妊手術の際にでも、皮を少し縫合すれば治るのだそう。
たしかに、トイレの時にモフモフのニッカポッカを濡らしてしまうことも多かったけれど、そのたびに可愛いおちりを拭いてあげることも、ママにとっては楽しい日課でした。
でも、Lyckaの本当の“個性”に気付くことになったのは、この後だったのです。
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Lyckaが家族に加わって2ヶ月が経ち、それはいつものようにママの胸に抱っこされて、ゴロブー甘えていた時のことでした。「あれ?Lyckaのお股に二つ、しこりのようなものができてる;;;」
ママは慌ててLyckaを病院へ。診断の結果、突然現れたしこり状の物の正体は“精巣”で、可愛い女の子だとばかり思っていたLyckaは、実は、女の子と男の子の生殖器をもつ両性具有、“半陰陽”だと分かったのです。しかも、数少ない“半陰陽”の中でも、こうして精巣がきちんと体外に二つ降りるのは、さらにレアケースなのだと。
その診断が下ったのは、かつて桃がお空に旅立った“桃の日“。ママたちは思いました。これは桃からのメッセージに違いない。「ちょっと個性的な娘だけど、お母さん達よろしくね」きっと桃はそんな風に言っているのでしょう。
もちろん女の子であっても男の子であっても、Lyckaが可愛い娘であることに変わりはありません。兄弟一成長も早く、健康優良児でもあるLyckaは、近々精巣摘出手術を受けることになりました。そして、数ヶ月後に卵巣摘出を受ければ、性別なんて全く関係がなくなる。女の子がとても欲しかったママたちだけど、もうLyckaじゃないとダメだから。
けれど、Lyckaの特異性は、これだけにとどまりませんでした。半陰陽が分かった数日後、お昼寝から起きたLyckaの異変にママは気付きました。突然、自分のしっぽを追うようにクルクルと勢い良く回りはじめた行動に、ただならぬものを感じ、胸に抱きかかえると、Lyckaの黒目の部分が10秒ほど小刻みに左右に揺れていました。Lyckaは、この日、初めての“眼振”発作を起こしたのです。
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ママたちにとっても、初めて経験する我が子の眼振。すぐに症状が治まったとはいえ、主治医に診てもらうのはもちろんのこと、猫専門病院を訪れたり、いつも電話でアドバイスをもらっている、かつての主治医に相談もしました。
この時点では、三名の先生方の言葉はいずれも慎重でした。それは、子猫の眼振の原因には、内耳炎の悪化や、とくに治療の必要の無い“特発性前庭疾患”もあれば、命にかかわるウイルス性脳炎や髄膜炎まで、さまざまな病気が考えられるからです。Lyckaの場合、検査によって、内耳炎と、トキソプラズマやFIPドライタイプによる脳炎の可能性は否定され、除外診断で残ったのは「先天的な脳障害があるかもしれない」ということでした。
「半陰陽という特殊な体をふまえると、脳にも何らかの異常があってもおかしくはない。ただ、その“程度”は経過観察してみないことには分からず、一過性で済むかもしれないし、将来的に、てんかんなどを起こす可能性もあるかもしれない。もし症状が悪化していくようなら、麻酔のリスクが高くなるので、精巣・卵巣摘出手術も難しいでしょう」
ママたちは、これを聞いて目の前が真っ暗になりました。先住たちに迷惑をかけないような健康な子猫を選ぶことが、多頭ママの務めだと思っていたのに。何もかもが順調にいっていた至福の時に、突然、奈落の底に突き落とされたようで...。
混乱した気持ちのまま、Lyckaのブリーダーさんに連絡をとると、ブリーダーさんの口をついて出たのは「もしそちらで育てられないなら、障害を持つような子はうちには置けませんから安楽死させますが」という耳を疑うような言葉。
けれど、そのお陰でママたちは、我に返ることができました。この先何があろうと、Lyckaを守ってやれるのは自分たちしかいない。絶対にLyckaを守ってみせる。
奈落の底に突き落とされたこの日は、同時に、家族の絆をしっかりと固く結び直した日となりました。
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ママたちの心配をよそに、Lyckaの経過は順調でした。兄姉たちとの賑やかな毎日、大好きなお兄ちゃんとの遊び、それらがLyckaの脳の健全な発育を促しているのではないかと、子供達をよく知る主治医先生がいつも言っていました。
眼振はあの一度だけで治まったわけではないけれど、ごくたまにしか起きないこと、起きるタイミングがお昼寝の後に限られ、10秒ほどで元に戻ること、悪化の傾向がないこと。これらの経緯に、三名の先生方の診立てもどんどん楽観的なものへと変わっていき、Lyckaの症状は、当面、特に治療を要するものではないと位置づけられました。主治医が師事している、日本の脳外科の権威といわれる先生も、「珍しいケースだが、脳の問題ではなく内耳の血行不良ではないか」というアドバイスをくださり、ママたちを多いに勇気づけてくれました。
でも、どんなに楽観的なデータが並んでも、いざ眼振が起こった日は、ママたちの心は穏やかではありません。そして、もう一つ。ママたちの心を苛んでいたのは、Lyckaのブリーダーさんとのこと。
Lyckaが“先天性”の問題を抱えていることで、ママたちとブリーダーさんとの間には、避けては通れない話し合いがありました。ブリーダーさんは「この先面倒なことにならないためにも、できれば猫を返してほしい」と言い、その際「譲渡代を返却する代わりに、戻した猫をどんな扱いにしても口出し無用」だと。
Lyckaの幸せだけを願う母の想いと、自己保身だけを考えるブリーダーさん。両者の溝は埋まるべくもありません。本当だったら一番頼りにしたい立場の方に、どれだけ言葉を尽くしても全く気持ちが伝わらないことに、ママたちはどんどん追いつめられていきました。
せっかくLyckaが元気いっぱいに過ごしてくれていても、Lyckaをめぐる人間関係に疲れ果ててしまったママたちの頭に浮かぶのは、悪い妄想ばかり...。心はいつもLyckaのことでいっぱいで、眼振を起こしやすい時間帯になると、仕事も手に付かずにLyckaの姿だけを追ってしまう。それはLyckaに対しても、他の子達に対しても、とても申し訳ないことでした。
後にLyckaの弟となる、目をキラキラと輝かせたルディの男の子に出逢ったのは、そんな時だったのです。
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お迎えはLyckaで最後と思っていたのに、それを揺るがすほどの激しい衝撃を感じたママたちは、その男の子を家族に迎えたいと心から思いました。ただのわがままかもしれない、でも、彼には、我が家を明るく変えてくれる強い“何か”を感じる...。
ママたちは、今の自分たちに新しい家族を迎える資格があるかどうか、真剣に、慎重に考えました。
幸い、大家さんとご近所さんに恵まれ、環境的に問題はありません。ママたちの仕事の関係で、どちらか一人は必ず家にいるので、頭数的にもお世話のできる範囲。軟便で投薬中だった大きいお兄ちゃんも、今は絶好調。Lyckaを診てもらっている先生方も、今の我が家にとって、子猫のお迎えは、かえっていい影響をもたらすかもしれないと言ってくれています。
それでも心配症のママたちは、万が一、将来Lyckaがてんかん発作を起こした場合も考え、親類の所有する一軒家にいつでも越せるような手はずも整えました。その家なら、いざとなったらLycka専用の部屋もつくってあげられる。
その上で、何度も自問自答しました。子猫を迎えることが、自分たちにとって、精神的な“逃げ場”になってはいけない。その喜びを支えに、もっともっと強くなれるだろうか。
でも、ひとたびに男の子に逢ってみれば、迷う余地もありません。それは、運命の家族だけが持つ“不思議”で“圧倒的”なパワー。その子のそばにいるだけで自然とわき上がってくる、母としての強い気持ち。さらに、愛情いっぱいのファミリーに育てられた彼は、人を元気にしてくれる温かいオーラを体中から発していて、今のママたちにとってそれが何より必要なものでした。
男の子はソマリ一家の一員となり、優しいお兄ちゃん、可愛い弟くんに囲まれたLyckaの、一番光り輝く日々がはじまったのです。
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子猫軍団の仲の良さ、元気の良さは、ママたちをすっかり変え、家の中は毎日、明るさと笑顔に包まれました。その中心はLycka。Lyckaは「可愛い妹」と「面倒見のよいお姉ちゃん」の二役をそれは見事にこなし、今まで以上にイキイキと煌めいていました。
まだ小さい弟くんを、夜、安全のためにケージに閉じ込めて寝かせようとすると、それまで自己主張などしたことのないLyckaが、怒ってママたちに抗議するのも、微笑ましい変化でした。弟くんから片時も離れないLyckaの愛情あふれる行動は、姉というより母のようでもあり、おそらく“母性”が目覚めたことが、Lyckaを強く変えたのでしょう。
眼振は相変わらずたまに起こるものの、発育はすこぶる順調で、初回のヒートも既にきていることから、そろそろ真剣に、Lyckaの精巣・卵巣摘出を考える時期になりました。
ただ、全ての先生方から言われていたのは、念のため、精巣・卵巣摘出手術を受ける前に、麻酔に耐えられる脳かどうか、一度MRIを受けておいた方がよいということ。そこで、以前にアドバイスをくれた脳外科専門医の病院まで遠征し、併設の高度医療センターでMRIの検査を受けることになりました。実はもっと近場にもMRIを備えた病院はあったのですが、麻酔をともなう検査ゆえ、信頼できる医療施設で受けさせたいとママたちは思ったのです。
が、この検査の日が、家族の「運命」を変える一日になりました。